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[ 父の終活と母の形見 ] Vol.1
忘れられない母の味 〜 梅ジュースとしそジュース〜

投稿日 2020.06.20

母の形見(手料理)

この『父の終活と母の形見』では、娘の立場から、父がおこなっている終活と、心臓の病で2年前に突如この世を去った母がのこしてくれた遺品について、それぞれお話をしていきたいと思います。
終活といっても、何を整理するかは家庭によって様々かと思います。このコラムで綴るお話はあくまで我が家の一例ですが、このコラムをつうじて「これはやっといた方がいいな」「そこを整理しておかないと子供が困るのか」といった、皆様の終活への助力や興味につながれば幸いです。


母に教えてもらっておけばよかったこと

母が亡くなったのは2年前のことで、その知らせは突然でした。父から電話があり、そのときすでに母は亡くなっていました。丁度その日の朝に、私は母と電話で普段通りの他愛ない話をしていましたので、父の言葉を最初はまったく信じられませんでした。
誰もが母がそのように突然この世からいなくなってしまうことなど想像しておらず、それは母にとっても同様だったと思われます。自分が突如死ぬことなど考えていない母ですから、当然のことながら、自分が死んだあとのことについても、まったく何も準備していませんでした。
そして、私も、今にして思えば「これを聞いておけば良かった」と思うことが、いつくかあります。
今回は、そのなかから、大好きだった母の味についてお話したいと思います。

母特製の美味しい手作りジュース

初夏に近付くと飲みたくなるドリンクといえば、母特製の梅ジュースとしそジュースです。
どちらも新鮮な生の南高梅や赤しその葉から作られるので、出来上がるまでなかなか手が込んでいます。私が小さかった頃から、梅やしその季節になると毎年恒例行事のように、母がせっせと作ってくれました。

梅ジュースは、梅酒と違ってノンアルコールなので、子供から大人までがぶがぶ飲めます。梅が採れる梅雨になると、気付くと母がスーパーから大量の南高梅を買ってきたものです。
ダイニングテーブルで、銀色のボールに山積みになっている梅を目の前に、幼い私は母と並んで、爪楊枝で梅の実に穴をあけていきます。梅の表面に爪楊枝でぷすぷすと刺すことで、あとで一緒に瓶の中に入れる氷砂糖とよく漬かるのだと母は教えてくれました。私は、この作業が特に好きでも嫌いでもありませんでしたが、やりだしたら止まらないもので、なぜかいつも真剣になって梅に爪楊枝を突き立てていました。
瓶に入れられた梅は一ヶ月くらい時間をかけて、ゆっくりとジュースになります。
我が家の台所には、この梅ジュースの瓶が、いつも何個も常備されていました。
「これは今年の梅、こっちは去年、あっちは?」
そんな感じで年季が入っていくジュースは、コクが違って、それぞれに美味しく旨味があります。

しそジュースは、赤しそを使っていました。
母が大量に赤しそを束で買ってきて、バサっとダイニングテーブルに置いてあることもあり、こちらも梅ジュース同様に台所でその存在感を放っていました。「これから作るのだな」というのが一目瞭然です。
しかし、梅ジュースと違って、しそジュースは幼い頃の私には手伝えることは少なかったように思います。
覚えているのは、その熱気です。梅と違って、しそジュースは鍋で煮ます。
台所で母がコンロに火を点け、大きな鍋で赤しそをグツグツと煮始めると、よく私は鍋の中をのぞきに行ったものです。鍋の中には大量の赤紫の液体が揺らめき、その独特の色に魅せられていました。
出来上がると母はコンロの火を消して、しんなりとした赤しその葉とジュースをわけるため、銀色のボールの上にこし布を広げると、そこにサバっと煮立った葉とジュースを流し入れていました。
熱々のジュースは、そのまましばらく置いて熱を取り、のちに冷蔵庫で冷やされました。
しそジュースの季節になると、いつもわくわくして冷蔵庫をあけたものです。

料理のレシピも大切な遺品

そうして完成した、母特製の梅ジュースとしそジュース。氷を入れたグラスに注ぎ、水で割って飲みます。家族それぞれ、お好みの濃さで。懐かしく思い出される、我が家の風景です。
ただ、残念でならないのが、そのレシピを私が母から教わっていなかったことでしょう。母と共に消えてしまった味。毎年、暑さを感じる時期になると、愛おしく思い出されるのです。
遺すべきものは、金銭や物だけではありません。大切な味も、人の人生や心を豊かにします。
大切な味が消えてしまわないように。できるうちに、一緒に台所に立って、楽しくレシピを受け継がれてはいかがでしょうか?

野村みどり

ライター / プランナー

野村みどり (ノムラ ミドリ)

「日比谷花壇のペット葬」WEBサイトにて、コンテンツの企画・編集・ライティングを務める。オハナクラブでは、自身の経験を踏まえ、娘世代から見た父の終活を題材にした連載コラム『父の終活と母の形見』を執筆。その他 イベント企画から取材記事まで幅広く担当している。

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